大阪地方裁判所 昭和26年(ワ)2420号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実〕原告は昭和二五年一二月その所有する土地を賃料一ケ月二〇〇〇円で被告に賃貸し、被告はその地上に店舗兼居宅を建築所有している。原告は、右土地は一時使用の目的で賃貸したもので、(イ)賃貸期間は一年とする、(ロ)契約期間中でも右土地を公益事業等に必要とするときは賃貸人の請求によりいつでも返還する、との特約があり、右(ロ)の事由が生じたと主張して昭和二六年に建物収去土地明渡請求の本件訴を起して争つてきたが、昭和三四年三月一四日付同日到達の内容証明郵便で被告に対し右土地の同年三月一六日以降の賃料を一ケ月金二八、〇〇〇円に値上げする旨の通知をし、右賃料の支払がなかつたので、同年六月三日付同日到達の内容証明郵便で、同年三月一六日以降同年五月末日まで一ケ月二八、〇〇〇円の割合による延滞賃料を右書面到達の日の翌日から三日以内に支払うよう、もし支払わないときは賃貸借契約を解除する旨の条件付契約解除の意思表示をした。これに対し被告は、同年六月三日、従前の賃料である一ケ月二、〇〇〇円の割合で同年三、四、五月分の賃料を弁済供託した(なお、昭和二六年八月分以降昭和三四年二月分までの賃料は原告が受領を拒絶したので被告において弁済供託を続けてきた)。そこで原告は、条件成就により本件賃貸借契約は解除されたとして、本訴請求の理由を予備的に追加主張した。
〔判断〕裁判所は、まず本件賃貸借契約は一時使用の目的でなされたものと認められないから前記特約は借地法一一条により無効であるとして原告の当初からの主張を退けた後、右予備的主張につき、昭和三四年三月当時の本件土地の相当賃料が一ケ月金二八、〇〇〇円を下らないことを証拠で認定し(本件土地については昭和三一年七月一日以降地代家賃統制令の適用がない)、従前の賃料一ケ月二、〇〇〇円は著るしく不相当であるから原告のした賃料増額請求は適法であり、被告の供託によつは催告にかかる延滞賃料はまだ完済されていないと判断したうえ、次のように判示して、結局原告の明渡請求を排斥した。
「しかし、賃料増額請求後の相当賃料の額については賃貸人及び賃借人の立場や事情の相違により意見を異にする場合が多く、双方の意見が一致しなければ結局判決により確定する外はないのであるから、賃貸人が自己が相当とする増額請求後の賃料額に基き延滞賃料の催告をした場合に、その額を不相当とする賃借人が判決によつて確定するまで一応従前の約定賃料に従い延滞賃料を弁済しても、著るしく信義に反し賃貸借の存続を困難ならしめる特別の事情がない限り、賃貸借契約解除の事由とならないものと解するのが相当である。ところで被告本人尋問の結果に本件口頭弁論の全趣旨を斟酌すると、原告は、特約に基き本件賃貸借契約は終了したという立場をとり本件土地の明渡を受けることを念願として昭和二六年八月分以降の賃料の受領を拒絶し昭和二六年九月本件土地明渡請求の訴訟を提起したが、このままでは土地明渡の請求を維持することが困難なため、昭和三四年三月一六日賃料増額の通告をなし次いで同年六月三日一ケ月金二八、〇〇〇円の割合による解除条件付延滞賃料の催告をなし、同月一三日付準備書面により本件賃貸借契約は賃料不払により解除せられた旨の請求原因を追加し昭和三四年三月一六日以降の賃料、損害金を請求するに至つたこと、被告は原告より賃料の受領を拒絶されたので昭和二六年八月分以降の賃料を供託してきたが、右賃料増額の通告及び解除条件付延滞賃料の催告のあつた際も、右訴訟に於ては賃料損害金の請求がなかつたので賃料増額の点は別個に解決すべきものであつてそれまでは一応従来の約定賃料に従つて弁済し増額賃料確定後不足額を弁済すれば足るものと考えて、約定賃料に従つて供託したものであることが認められる。尤も右昭和三四年三、四、五月分の賃料の弁済供託に際り弁済提供をなした事実は認められないが、右認定の事情によると従前の約定賃料額を提供するも原告がその受領を拒絶することは明らかであるから、弁済提供をなさずしてなした右供託は適法なものというべきである。
而して右のような事情における被告の賃料債務の不履行をもつて本件賃貸借の存続を困難ならしめる程信義に反した行為ということはできない。従つて原告のなした契約解除の意思表示はその効力がない。」